たけべアメージングストーリー 「たけべアメージングストーリー」 作  建部 鮎太
「僕らはここから世界を変えるんだ」建部の3人の子どもたちが時空を超えた旅に出た。


第1話  プロローグ  「大田トンネル」

  • *主な登場人物*
    建部 鮎太(あゆた)
     建部中学1年生の少年
    建部さくら
     鮎太の妹、小学5年生
    河本温人
     鮎太の同級生
    建部 鮎一郎
     鮎太の父、岡山の大学教授
    建部 すみれ
     鮎太の母
    建部 鮎男
     鮎太の祖父だが亡くなっている
    建部 桃江
     鮎太の祖母
    日船上人
     不受不施を説く日蓮宗の高僧
    腰折れ富蔵
     富沢地蔵の盗人だが優しい男
    鶴田 楓
     鶴田城の姫君
    竹内老翁
     竹内流武術の開眼者
    池田 清尚
     建部領主、池田長泰の嫡男
    塩谷十兵衛
     中田新町の塩問屋の息子

  •        

                  ―― 1 ――

 僕の名前は建部 鮎太、建部中学校の一年生。住んでいる所は岡山市北区建部町福渡。家族は両親と小学五年生の妹の4人。三年前、旭川沿いにある、 おばあちゃん家の隣に新しく家を建てて越してきた。それまでは市内にあるお父さんの勤務先の大学の寮にいたんだけど、 おばあちゃんが転んで足を怪我したのをきっかけに、戻ることになったんだ。
 友だちに言ったら、「へぇー、そんな山の中じゃあ、きっとケイタイ、通じないよ」ってバカにされた。 でも、しょうがないよね、僕だって、どうしてここが同じ岡山市なのかわかんないもん。まあ、ケイタイはつながるけど。
 おばあちゃんの家は今はやっていないけど、もとは旅館で、なんでも町内で指折りの宿とかで繁盛していたんだって。 お父さんもよく覚えていないそうだから、だいぶ昔の話だと思う。おじいちゃんは、僕が生まれる前に交通事故で亡くなったって聞いている。
 若い頃のお父さんは、そんなあんまりお客の来ない旅館を継ぐ気はなくて大学に残り、それからはメダカの遺伝子研究に没頭している。 でも本当に夢中なのは、釣り。それも、アユ釣り。
 僕の名前がどうして「鮎太」なのか、それで分かるよね。お父さんも、おじいさんも、ひいおじいさんも皆、「鮎」の一文字が付いているんだって。 もうそんなの、ちっともうれしくない。友だちの温人(あつと)に話したら「オレも似たようなもんだ」って。温人のおじいさんは、毎日、八幡温泉の水 を汲みに行くほどの温泉好き。で、初孫に「温湯(あつと)」って付けたらいいと言って、でも周りが反対して、それで結局この字に落ち着いたんだって。 どこの大人も自分の趣味を子や孫に押し付けるもんなんだね。

 でも、僕のお父さんも自分の名前が嫌いだったって。だから、おじいさんが生きている頃はアユ釣りなんかしなかったんだって。 それが亡くなってから急におじいさんの竿を持ち出してやるようになったって。そんなことで言うと、僕もいつかそうなるのかもしれないなあ。 今度、温人に聞いてみよう。そうそう、僕が転校して来て最初に友だちになったのが、この河本の温人。
 温人のお父さんと僕のお父さんが同級生で、今も一緒に釣りに行く仲間だから。僕らはたまの休みの合う日には温人の家の4WD車で川や渓流に連れて行かれる。
 それと、温人のお父さんが市内で教えている剣道に二人で通っている。最初は温人の方が腕は上だったけど、今はちょっとだけ僕の方が強くなった。 もうすぐ初段に挑戦するつもりだ。僕らはいつも一緒にいるので、他の生徒からは
「建河(タケカワ)コンビ」と呼ばれている。

 そんな、いつものようにつるんでいたある日、温人から聞かされた不思議なできごと。家からすぐの国道53号線にできたトンネル、「大田トンネル」って言うんだけど、 そこで起きた話。
 近所のアパートに住むおじいさんで、フクちゃんという名の犬を飼っているんだけど、1か月ほど前、夜中にフクちゃんが表に向かって急にワンワン吠え出したんだって。 それで、おじいさん、シッコでもしたいのかと思って外に連れて行ったんだ。

 そうしたらフクちゃんはぐんぐん前へ歩き出して、いつもは行かない53号の方に向かったんだって。おじいさんの話だとフクちゃんは水が嫌いで、 普段から側を流れる旭川近くには行きたがらなかったのに、このときは違って、それで3本松のあたりに来たとき、いきなりガーって走り出した。 おじいさんやっとの思いでついていって、そのまま大田トンネルまで来たんだって。
 中に入っても力いっぱいおじいさんを引っ張って進んで、やっと真ん中あたりで立ち止まったんだ。おじいさん、 ほっとして腕時計を見るとちょうど午前0時になるところだったって。
 そのとき前の方からものすごいスピードでバスのような乗り物が、ゴ−ンという音と青色ダイオードの何千個分かと思えるほどのヘッドライトを照らして向かって来たんだって。

 おじいさん、もう目が開けていられなくてウワ−っと腕をあげて顔を覆ったんだ。気がつくとおじいさんの手にはロープだけがあって、さっきまでいたフクちゃんはいなくなっていた。 おじいさん、「フクやー、フクー」って呼んで向こうの出口、こっちの入り口と探したんだけど、それっきりフクちゃんは消えてしまったんだ。それ以来、おじいさんは 部屋に閉じこもってしまい、その時にしていた時計もフクちゃんの小屋の毛布の上に置かれたままだって。

 これって、あれかなあ。前に図書室で借りて読んだことのある「タイムトンネル」。地球上には時間を超えた空間が存在していて、その隙間に入ると別の時代に行ってしまい、 二度と戻れなくなる。フクちゃんもそんな別の時代に迷い込んでいる・・・。

  *この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。

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