たけべアメージングストーリー 「たけべアメージングストーリー」 作  建部 鮎太
「僕らはここから世界を変えるんだ」建部の3人の子どもたちが時空を超えた旅に出た。


第1話  プロローグ  「大田トンネル」

  • *これまでのあらすじ*

    建部中学1年生の建部鮎太は友だちの河本温人から国道53号線の大田トンネルで起きた不思議なできごとを聞かされる。 それは近所のおじいさんと飼い犬のフクちゃんが深夜に大田トンネルに散歩に行き、そこで強烈な光に襲われフクちゃんがそのまま行方が分からなくなった事件。
    鮎太はもしかするとフクちゃんが時間を超えた空間にタイムスリップしたのではと考えた。



    *主な登場人物*
    建部 鮎太(あゆた)
     建部中学1年生の少年
    建部さくら
     鮎太の妹、小学5年生
    河本温人
     鮎太の同級生
    建部 鮎一郎
     鮎太の父、岡山の大学教授
    建部 すみれ
     鮎太の母
    建部 鮎男
     鮎太の祖父だが亡くなっている
    建部 桃江
     鮎太の祖母
    日船上人
     不受不施を説く日蓮宗の高僧
    腰折れ富蔵
     富沢地蔵の盗人だが優しい男
    鶴田 楓
     鶴田城の姫君
    竹内老翁
     竹内流武術の開眼者
    池田 清尚
     建部領主、池田長泰の嫡男
    塩谷十兵衛
     中田新町の塩問屋の息子
  •        

                  ―― 2 ――

 9月22日。フクちゃんがいなくなったのが3月20日だから、ほぼ半年が経っている。僕の腕にはフクちゃんの小屋からこっそり持ってきた、 おじいさんの腕時計がしてある。2つの秒針はピッタリ真上の12で重なったままだ。僕はこの時を奇妙な自信を持って迎えた。きっとこの日に違いない。
 幸い今日はお父さんも、お母さんも恩師の人の受賞パーティーとかに出席して、帰りは深夜遅くなるって。そのため晩御飯を作りに、おばあちゃんが来てくれている。
 おばあちゃんは足が良くなってからは、自分の家で前と同じようにご飯もお風呂も一人でやっている。結婚前は看護婦さんをやっていて、人を助けるのが仕事だったので自分が助けられるのは嫌なんだって。夢はナイチンゲールのように人を救うことだったのに、おじいさん一人救えなかったよって、よくこぼしている。
 僕は、おばあちゃんがテレビなんか見ないで早くお風呂に入って寝なさいよって、声をかけた帰ったのを確かめるとすぐに行動を開始した。
 妹のさくらの部屋の電気は消えている。夕方、テレビでマララさんのニュース特集を見ていて、急に「さくらもノーベル賞をもらう」って言いだした。おばあちゃんから「さくらは勉強するより、男の子と喧嘩する方が好きなんだから、これから大変だね」と言われると、「もう、おばあちゃんは何でさくらが男の子と喧嘩ばかりしているように言うの。おにいちゃんには言わないのに、私だって、いつか世界の人を助けるんだ」 と部屋に入り込んだままだ。いつのまにか眠ってしまっている。
 温人とは五分前に現地集合って約束してある。でもあの家、お父さん警察官だから結構きびしいかも。

 机の上の目覚ましがピピッと鳴った。11時、と同時に僕の左腕に振動が。おじいさんの腕時計が動き始めた。しかも、いつのまにか、針が11時に戻って。
 おかしいなあ、お父さんがこっそり直してくれたのかなあ。
 僕は「TAKEBE」のロゴの入ったトレーナーを着ると、前もって用意してあった非常用リュックを背負った。中には東日本大震災で役立ったと言われている懐中電灯、水のペットボトル、キズパワーパッド、お父さんがシンガポールに出張したときになんにでも効くと聞いて買ってきたタイガーバームに方向磁石。ライター、ボールペンと紙、 カバヤのキャラメル、カルビーポテトチップス。
 ケイタイは学校で夜9時からは使用禁止になったし、お母さんなんかから掛かってきても面倒なので置いていく。

 よし、これだけあれば、たとえ森で遭難したって1日か2日ならどうにかなる。
 建部に来てすぐの小学4年生の時、こにある「めだかの学校」のサマースクールに家族で参加して、たけべの森に入ったことがあるけど、その時、「ドングリコンテスト」で誰よりも大きい ドングリを拾おうと夢中になっているうち、皆から離れてしまった。振り向いて、来た道を探したけど笹や灌木で、どこを歩いたのかもわからない。上を見ると空も望めないほど木がおおっていて、 ああ、僕はこのままずっとここから出られないんだ、そう思ったら急に居ても立ってもいられなくなって、夢中で駆け出していた。そうしたらドスンと人にぶつかって、お父さんが「ほら、危ないだろう、そんなに駆けちゃあ」と笑いながら立っていた。 僕は泣き出しそうになったけどお父さんのお腹を何回もこぶしでパンチして我慢した。そんな怖い思いをしたから、それにあれから僕も大人になったし、準備だけはしっかりとした。

 11時40分、腕の時計もしっかりと動いている。僕はお気に入りのナイキのスニーカーを履くと玄関を出た。

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  *この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。




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