*これまでのあらすじ*
建部中学1年生の建部鮎太は友だちの河本温人から国道53号線の大田トンネルで起きた不思議なできごとを聞かされる。
それは近所のおじいさんと飼い犬のフクちゃんが深夜に大田トンネルに散歩に行き、そこで強烈な光に襲われフクちゃんがそのまま行方が分からなくなった事件。
鮎太はもしかするとフクちゃんが時間を超えた空間にスリップしたのではと考えた。
9月23日深夜、鮎太は用意してあったリュックを持つと温人と待ち合わせた大田トンネルへ向かう。
家から大田トンネルまでは歩いて10分とかからない。空にはひしめき合うほどの星。岡山の市内に住んでいた頃は半田山にでも登らない限り星なんて観えなかったのに、
今では毎日がプラネタリウムだ。
53号をそのまま岡山方向に向かって歩く。夜遅いせいか車の音がほとんどしない。聞こえるのはそばを勢いよく流れる旭川の水音。
先週の台風による大雨でダムの放流が続き水量がぐんと増えているとお父さんが言っていた。この調子だと、また「幸せ橋」が流されるかもしれない。
「幸せ橋」は人が通るだけの木造の橋なんだけど、これまでに3度流されて、そのたびに修復されてきている。
「もう、ダムがあるけん、旭川はおえん」と言うのがお父さんの口ぐせだ。
この間も河川敷の大掃除の回覧が回り、行ってみると水が臭く匂ってどうしようもなかったって。おまけに岸も中洲も林のように生い茂っていて、
なのに集まったのは自分が一番若いくらいで、ほかは70歳以上の年寄りばっかり。こんなんでどうやって川をきれいにするんだって。
それと、みんな帰ったあと草刈り機が1台残っていて、これっを忘れて気づかないくらい年とった人らがここを守っているんだから、もう時間の問題だなあって。
時間は11時50分。大田トンネルのオレンジ色の明かりが見えてきた。予定より少しかかった。じつは僕が確信をもってこの日と決めたのには訳がある。
と言っても大した考えじゃない。フクちゃんがいなくなったのが3月21日、春分の日。春のお彼岸とも言うらしいけど。最初、数字を浮かべて3,2.1で
0時みたいなことで謎解きしてみたけど、どうもピンとこない。で、ふと思ったのが、また戻って来るんでは?
そのバスのような乗り物が津山の方に向かったのなら、いつか岡山の方向に帰って来る、そんな気がしたんだ。それも頻繁じゃあなくて1年に1回、往復しているような。
だとすると、ほぼ半年後の今日、秋分の日。これも秋のお彼岸とか言うらしいけど。
トンネル中に入りそのまま左側にある自転車も走れる広い歩道を進んだ。
このトンネルは二年前に建部町の岡山と津山を結ぶ国道53号にできた長さ580メートルのトンネルだ。それまでの国道は山の西側にあり迫る山と川の間をギリギリに走り、
落石もあるような危険な道路だった。人が自転車なんかで通行しようとすると命がけだと言われた。 だから町の人は早くできて欲しいと言っていた。
開通式と言うのがあって、その時は学校中の生徒が呼ばれて行った。建設省の部長さんという人が工事の写真や掘削機械を見せてくれて色々と説明してくれて、
「山の重みでトンネルがつぶれないのは何故だかわかりますか?それは上からの重量を計算して、それに耐えられる円形の構造にしてあるからです。
みんなが勉強している算数とかが役に立つんですよ」って教えてくれた。
終わり頃に最後に貫通した時に出た石の破片をおみやげにくれた。何でも「意思(石)貫通」と言って、
持っていると受験合格とか願いがかなうお守りだとか。僕はこれだけ算数のできる人でも、石の魔力を信じているのが何だかとってもおかしかった。
100メートルほど行くと非常用電話の前に来た。もし何かあったらこれを使えばいいと思っているけど、でもこれって誰につながるののだろう?
後ろを向くとまだ入り口が見える。この先カーブでそれも隠れる、その手前まで進もう。
そう考えた時、人が来た。温人だ、チャリを押して。え?その後ろからもう一人子どもが・・・。
「さくら!」
(いよいよタイムトラベルか。次回は4月創刊号)
*この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。