*これまでのあらすじ*
建部中学1年生の建部鮎太は友だちの河本温人から国道53号線の大田トンネルで起きた不思議なできごとを聞かされる。
それは近所のおじいさんと飼い犬のフクちゃんが深夜に大田トンネルに散歩に行き、そこで強烈な光に襲われフクちゃんがそのまま行方が分からなくなった事件。
鮎太はもしかするとフクちゃんが時間を超えた空間にスリップしたのではと考えた。
9月23日深夜、鮎太は用意してあったリュックを持つと温人と待ち合わせた大田トンネルへ向かう。そして0時前、温人がやって来た。がその後ろには妹のさくらもいた。
*主な登場人物*
建部 鮎太(あゆた)
建部中学1年生の少年
建部さくら
鮎太の妹、小学5年生
河本温人
鮎太の同級生
建部 鮎一郎
鮎太の父、岡山の大学教授
建部 すみれ
鮎太の母
建部 鮎男
鮎太の祖父だが亡くなっている
建部 桃江
鮎太の祖母
日船上人
不受不施を説く日蓮宗の高僧
腰折れ富蔵
富沢地蔵の盗人だが優しい男
鶴田 楓
鶴田城の姫君
竹内老翁
竹内流武術の開眼者
池田 長尚
建部領主、池田長泰の嫡男
塩谷十兵衛
中田新町の塩問屋の息子
「鮎太!家の前でさくらちゃんが探してた。仕方ないからいっしょに来たよ」
「もう、おにいちゃん、急に玄関を開けていなくなるから。さくら、お母さんから、おにいちゃんのこと何かしそうだからよく見張っててねって言われてたんだよ」
慌てて追いかけてきて、パジャマの上からパーカーを着て靴は素足のままだ。
しょうがない、今、追い返してお母さんに告げ口されてもやっかいだし、どうせ0時になっても何も起きやしない。
三人でさらに50メートルほど、どうにか入口が見える位置まで進み、並んで壁にもたれ、じっとしている。さっきから不思議なほど車が通らない。
もし1台でも通りかかれば、こんな時間に子どもが歩いているなんて、と警察に通報されている。に
温人のお父さんが聞いて、それが自分の子どもたちだと知ったら大目玉だ。
時間は11時57分。いま気づいたけど1分って、こんなにも長いんだ。それが3倍か・・・。
ハァー何でこんなことしようと思ったのだろう、今ごろ後悔しても遅いけど。
11時59分。背が低くて分厚いメガネをしている温人が僕の腕時計をのぞき込むようにして見ている。
温人は歴史好きで何でも古いことを知りたがる。二十年前に作られた「建部町史」という本だってほとんど暗記するほどだ。
僕は地理に興味があるから二人で今、建部の地理と歴史を書いた「建部何でも大百科」を作ろうとしている。
その本を出すために「建河出版社」も設立した。今日の計画を話したら「ほんとうに昔に行けたら、すごい本ができるよ、鮎太」とすぐに乗ってきた。
後、10秒。たしかにホントにホントならすごい、でもそんなこと起こるわけがない・・・。
5秒、4、3、2、1、・。
針が0の次に進もうとしなかったのは覚えている。突然侵入してきた青色ダイオード数千個分の洪水に僕らの体は宙に舞った。
(次回はいよいよ江戸の時代へ?)
*この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。