たけべアメージングストーリー 「たけべアメージングストーリー」 作  建部 鮎太
「僕らはここから世界を変えるんだ」建部の3人の子どもたちが時空を超えた旅に出た。


    第2話  第一章「日船上人」

  • *これまでのあらすじ*
     建部中学1年生の建部鮎太は友だちの河本温人から国道53号線の大田トンネルで起きた不思議なできごとを聞かされる。 それは近所のおじいさんと飼い犬のフクちゃんが深夜に大田トンネルに散歩に行き、そこで強烈な光に襲われフクちゃんがそのまま行方が分からなくなった事件。
     鮎太はもしかするとフクちゃんが時間を超えた空間にスリップしたのではと考えた。
      9月23日深夜、鮎太は用意してあったリュックを持つと温人と待ち合わせた大田トンネルへ向かう。そして0時前、温人がやって来た。がその後ろには妹のさくらもいた。
     鮎太はしかたなく、さくらを連れていくことにした。そして0時、突然強烈な光が襲い3人の体は宙を舞った。

    *主な登場人物*
    建部 鮎太(あゆた)
     建部中学1年生の少年
    建部さくら
     鮎太の妹、小学5年生
    河本温人
     鮎太の同級生
    建部 鮎一郎
     鮎太の父、岡山の大学教授
    建部 すみれ
     鮎太の母
    建部 鮎男
     鮎太の祖父だが亡くなっている
    建部 桃江
     鮎太の祖母
    日船上人
     不受不施を説く日蓮宗の高僧
    腰折れ富蔵
     富沢地蔵の盗人だが優しい男
    鶴田 楓
     鶴田城の姫君
    竹内老翁
     竹内流武術の開眼者
    池田 清尚
     建部領主、池田長泰の嫡男
    塩谷十兵衛
     中田新町の塩問屋の息子

  •        

                  ―― 1 ――

 「はて。何ごとだろう、今の音は。それに大川に向かった奇妙なひかりは・・・。 やや、だれか岸で横たわっておる。お〜い、すぐに助けてやるから待っておれ」

 「ううう、お兄ちゃーん」
 「さ・く・ら、温人!」
 「ああ、あ、ゆ、太・・・」

 「おい、しっかりしろ。だめだ、すっかり気をうしなっている。困った。 おお、そうじゃ、前にここを通ったとき、たしか傷ついた白鷲が一羽、水浴びしておった。 もしや、あれは効能あらたかな薬湯やも知れん。汲んで飲ませてみよう」

 頭の中がぐるぐる光を追って駆けまわり、身体は地底に吸いついたまま動こうとしない。 何があったんだろう、何が・・・。

 「ひぇー、なんだ今の音は。びっくりして大八車がひっくり返ったじゃねえか。あっ、仏さんが おっこっちゃった。ありゃりゃ、ひざの下から割れちゃってるでぇ。やっとこさ重いのをここまで 運んだのに、ついてねえ。今からもとの所へ返すのも面倒だし、盗んできたものを届けに行きゃあ 待ってましたと捕まっちまわあ。えーと、この辺はたしか富沢村じゃよなあ、しかたがねえ、ここへ置いていくか。よっこらしょっと。
 地蔵さま、わしは富蔵という百姓です。どうも申しわけねえことをしました。恨まないでおくんなせえ、 わしも背に腹は代えられんのでのう。百姓やってたけんど、年貢も納められん年がつづいて、いよいよ夜逃げする しかねかった。村を抜けりゃあ、お咎めがあるのは分かっとっても、女房、子どもも売りに出す始末でどうしようもねえ。
 これからの身の置所はまだきまっとりませんが、人づてによると、この備前の久具村から建部上一帯に大川の水を引き込む 大普請がされておるとか。石割りは得意なもんで、そんな手間にありつけねえかと。まあ、それがなくても川原のすすきをねぐらの 舟ひきぐらいやれねえかと考えまして。
 で、その前に少しでも金子を手に入れてえと。そこへ、ほれ、地蔵さまがいらっしゃった。 徳の深い彫を為さって立っておられた。こりゃあ、ただの石仏じゃあねえと思ったしだいですわ。庄屋の家からこっそり大八車を借りてきて、 やっとこさ、横にして、縄で何重にもぐるぐるにして、ここまで来たら、 さっきのいきなりピカッでゴーン。腰を抜かしてしもうたんですわ。
 地蔵さま、ついでだから、いや、地蔵様のお顔を前にしてますと、なんというかお許しを得られたように ぺらぺらととめどもなく愚痴が出てしまいます。わしの郷はここよりずっと北でございます。それが、なぜここの地まで? えっ、そう、そうでございます。生まれた頃は今と違ってのんびりと、雨の日、風の日、雪の降る折りでも田畑さえ手をかけて大事に過ごしておれば、 どうにか家族中でやってこれたもんです。それが、侍がいくさを始め、ここはわしのもんだ、いや、わしのだと、もう何十年も争って、ご領主が変わるたびに 検知もしねえで、知らぬぞんぜぬで一粒の米も残らず持って行かれました。勝つも負けるもやってる方は好き勝手、気分がいいんでしょうなあ、 下の者がどうなろうとおかまいなし。こんなもんなんでしょうか、この世の中ちゅうもんは。
 なんでも、この国はそもそもは京の御所さまのずっと先代のヤマトタケルノミコトと言う方がこの地を平定され、おだやかで、皆々に分けへだて なく実りがほどこされるようにと定められたとか。つくり話でしょうが、こんな話。それでも少しは どこかに本当があるはずです。
 あああ、地蔵さまをこんな痛々しいお姿にして、まだ泣きごとを言っている。おかか、娘やー、許してくれー、必ずやむかえに行くけんのー」



 ――― 迷い込んだ江戸初期の建部?
 名湯「八幡温泉」を見出した日船上人、富沢に腰折れ地蔵を運んだ富蔵。 鮎太たちの運命やいかに。


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  *この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。

 




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