たけべアメージングストーリー 「たけべアメージングストーリー」 作  建部 鮎太
「僕らはここから世界を変えるんだ」建部の3人の子どもたちが時空を超えた旅に出た。


    第6話  第一章「ふたたび中田新町」

  • これまでのあらすじ

     建部中学1年生の建部鮎太、妹さくら、同級生の河本温人はふとしたことから江戸時代初期にタイムスリップする。
     そこで出会った僧侶、日船や石仏泥棒の富蔵、角石村の剣の達人、竹内老翁、建部藩主、池田宗春らの力を借りながら、 彼らはしだいに自分たちの力で生きていくことに目覚めていく。
     そんな中、鮎太は「姫こ渕」で美しい姫と出会い、必ず現代にいっしょに戻ると誓う。
     さまざまな出来事を乗り越えた鮎太らは、メールの指示を受け、再びタイムトンネルに乗る。
     そして着いた所は再び江戸時代?そこで瀕死の男を見つけた3人は、近くの小屋に住む若者に助けを求める。 若者が呼んできた医者と青年を見た鮎太たちは、二人が吉岡有隣と息子、吉岡弘毅と知り、青年が自分たちの先祖、鮎一と分かる。自分たちのこれまでを 伝える鮎太たち、ここでの生活がはじまる。  すっかり傷の治った男、黒船から、鮎一が心を寄せる女性がいることを知らされた鮎太は、その人の家が中田の「塩屋」と聞き、力になれるかもしれないと考える。 そんな折、診療所に母娘が訪れる。たまたま難産の妊婦の助けをしたその母こそシーボルトの子、おイネだった。そして、娘は「銀河鉄道999」のモデルと温人が言う高子だった。高子はさくらを羨ましく思い、自分も未来に生まれたかったとさくらに訴える。二人が話しての帰り、乱暴者が襲う。危ういところを黒船が駆けつけ追い払う。しかし、さくらは、余計なことと感謝しない。

    *主な登場人物*
    建部 鮎太(あゆた)
    建部に住む、中学一年生の少年
    建部 さくら
    鮎太の妹、小学五年生
    河本 温人(あつと)
    鮎太の同級生
    建部 鮎一郎
    鮎太の父 岡山の大学の教授
    建部 すみれ
    鮎太の母 
    建部 鮎男 
    鮎太の祖父だが亡くなっている
    建部 桃江
    鮎一郎の母、鮎太の祖母
    楓(かえで)
    鶴田城の姫君
    黒船 
    イカサマの賭博打ち
    鮎一 
    八幡の渡しの舟頭
    桐乃 
    塩問屋の一人娘
    吉岡有隣
    福渡の名医。
    吉岡弘毅 
    有隣の三男。日本基督教の先駆者。 































  •        

――1――

  おイネさんたちが去った翌々日、僕らとなぜだか黒船さんもいっしょで中田新町に行くことになった。あらかじめ弘毅さんに、鮎一さんのことで力になれるかもしれないと話すと、ただ訪れても会ってもらえないだろうから、父に一筆書いてもらうよと紹介文を持たせてくれた。
 家を出るや、さくらは「もう、なんで黒船さんがついてくるのよ、関係ないじゃん」とこぼし始めた。黒船さんは、それを聞いて、
 「まあ、そんなことを言わずにわしの相手もしてくれよ。ちったあ、役に立つこともあるかも知れんで」それから、何か思いついたように駆け出して、
 「さくらちゃーん、ちょっと、ちょっと、コレ、コレ」と津山街道の脇に置かれた石の前に立って手招きした。
 「なによ、もう、軽々しく人を呼ばないでよ!」そう言って面倒くさそうに近づいて行ったさくらが、「ああ、これね、この芭蕉の句碑がどうかしたの?」と聞き返す。
 それは今も僕らの時代に残っている、芭蕉の百年忌にあたる一七九〇年に建てられた句碑だった。
 「それがよう、前からなんて彫ってあるか気になってたんじゃが、人には聞けんでのう。聞いても、おめえにゃあわからんとバカにされるのがおちじゃけん、さくらちゃん、こっそりわしに教えてくれんか」
 「ふんっ」と鼻で笑ったものの、さくらも正直に頼まれたので嫌とも言えず、
 「これは、松尾芭蕉という偉いお人がつくった俳句が彫られてるんだよ」そう言って、
 「さまざまなこと思い出す桜かな・・・」と声にして読んだ。
 黒船さんは半分、宙を眺めながら「ほー、桜を見て、昔のことをあれこれ思い出せるいう人がおるんか、そりゃあ、よっぽどええ生まれじゃ。わしやこう、なーんも思い出すことがねえ、うらやましいのう」
 そして自分でも、「さまざまなことおもいだすさくらかな・・・」と口にして読んだ。

たけべアメージングストーリー  中田新町に行くのに福渡の八幡神社から山道を登って大田に出た。僕の時代にはこの道はすっかり跡もわからなくなっているけど、おばあちゃんの話だと、三〇年ほど前までは通れたそうだ。山のてっぺんまで田んぼがあって、猫車を押して人が行き来していたんだよ。そう言っていたとおりに、山の斜面はきれいに棚田が拓かれ、その間をお百姓が手押し車に鍬やら籠やらを載せて上がっていく。下には蛇行した旭川が望め、その向こうに建部平野が広がる。
 大田からは舟で対岸に渡り中田新町に入る。鮎一さんの八幡の渡しから行く方法もあったけど、今日の事は内緒にしておきたかった。僕らが、初代、塩屋十兵衛さんと友だちだったと言っても、それだけで娘さんと鮎一さんの結婚を許してくださるとは思えないし、ぬか喜びさせても悪いから。ただ、現に名前に「鮎」の付く僕や、お父さん、おじいさんがいるということは、ひょっとしたら何かの申し合わせがあるのかもしれない、そんな予感がした。
 桐乃さんも僕らのことを知って「きっと、神様が寄こされたのだわ」と、進展があるのを心待ちにしていた。
 黒船さんはずっとさくらの後ろに張り付いて、この間のような悪漢が襲って来ないようにボディーガード役をやってくれている。そんな黒船さんをさくらは、向こうへ行ってと手で犬でも追い払うような仕草をして見せる。
 大田から対岸の渡し賃は一人、一文だった。これも間もなく一厘、一銭と変わることになる。明治はすぐそこだ。





はたして、これから再び何が起きるのか?


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  *この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。




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