「たけべアメージングストーリー」 作 建部 鮎太「僕らはここから世界を変えるんだ」建部の３人の子どもたちが時空を超えた旅に出た。
第７話 第一章「後藤仲太郎」
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これまでのあらすじ
建部中学1年生の建部鮎太、妹さくら、同級生の河本温人はふとしたことから江戸時代初期にタイムスリップする。
そこで出会った僧侶、日船や石仏泥棒の富蔵、角石村の剣の達人、竹内老翁、建部藩主、池田宗春らの力を借りながら、 彼らはしだいに自分たちの力で生きていくことに目覚めていく。
そんな中、鮎太は「姫こ渕」で美しい姫と出会い、必ず現代にいっしょに戻ると誓う。
さまざまな出来事を乗り越えた鮎太らは、メールの指示を受け、再びタイムトンネルに乗る。
再び、着いたのは江戸時代の最後の年。福渡の医者、吉岡親子、鮎太の先祖、鮎一、イカサマ博打の黒船らと暮らしはじめた鮎太たち。
新しい明治の時代へと変わる中で出会いと別れを経験した三人は再び戻れることを願い、タイムトンネルに乗る。
＊主な登場人物
建部 鮎太（あゆた）
建部に住む、中学一年生の少年
建部 さくら
鮎太の妹、小学五年生
河本 温人（あつと）
鮎太の同級生
建部 鮎一郎
鮎太の父 岡山の大学の教授
建部 すみれ
鮎太の母
建部 桃江
鮎一郎の母、鮎太の祖母
楓（かえで）
鶴田城の姫君
山本唯三郎
三明寺出身の大実業家
後藤仲太郎
建部の織物工場の創始者
上代 淑（よし)
山陽女学校、校長
大橋文之
画家、歌人、福渡で多くの門弟を育てる
建部鮎吉
鮎一の息子、旅館「鮎家」主人
建部鮎彦
鮎吉の息子
建部 マリ
鮎吉の娘
建部 桐乃
鮎彦の祖母
「ところで、お前ら、どこの者じゃ？」
法寿山を下り始め、阿弥陀様の手前あたりになって、やっと思い出したように仲太郎さんが聞いた。
「ええ、あの、福渡に住んでますが、名前は建部鮎太と言って、こっちは妹のさくら、それと同級生の河本の温人・・・」
「へえ？建部鮎・・・って言うと、あの旅館の鮎家の子かい？鮎家におめえ位の子がおったかなあ？」
鮎家？そうだ、うちは今も近所の人から「あゆやさん」と呼ばれてるけど、その旅館だったんだ。
「いえ、今の子じゃあなくて、一〇〇年後から来たんです」
「はあ？こっ、こりゃあまた、面白れえことを言うのう。百年先の人間じゃて、せえが何でこげえなとこに現われたんじゃ。もしかして、頭がやられとんじゃねえんか？」
「仲太郎さん、仲太郎さんはさっき阿弥陀様にお願いがあって来られたと言われてましたよね」温人が仲太郎さんの傍に歩み寄って話しかけた。
「それが何だか当ててもいいですか」
キョトンとした顔で立ちどまった仲太郎さんが「ああ、言ってみろ」と不審そうに答えた。
「お百姓が農閑期にも働けるような大きな織物工場を創りたい、それで、その成功をお願いしに来た。そうじゃないですか」
まっすぐに立っていたはずの仲太郎さんの身体がヘナヘナっと地面にへたり込んでしまった。
「ええ？なんで、わしの腹の中がわかる・・・それも、どんな事業が良いか阿弥陀様に教えてくだされとお頼みしただけなのに。織物？確かに、何でそれに気づかなかったか。わしは人間に絶対に欠かせんものは農業ばかりと考えていた。
しかし、衣食住、食べることよりもこれからは身につけるものの方が重要だ。百姓といっても、子どもを学校に通わせるのが義務になったし、町に出て働く者も出て、今までのように着の身着のままというわけにはいかん。必ず、何倍もの服や履物が必要になる。
そうか、これなら季節に関係なく昼でも夜でも、雨の日だって生産ができる。お天道様だのみの農家を助けられる。昔だったら、こんな田舎で作っても運ぶのが大変だったが、幸い、今じゃあ建部に中国鉄道が走って・・・」
その時「ゴォワーン」とライオンでも吠えてるような音が下から聞こえて来た。僕と温人、そして、さくら、一斉に阿弥陀様の置かれている所まで駆け下りた。
線香の売店を過ぎ、石仏の前に行くと、福渡と旭川が一望に望めた。
その旭川の右手に架かる鉄橋をまさに今、煙を吐いて真っ黒い列車が津山へと向かう。
「おおっ、すごい・・・、ＳＬだ！」
はたして、これから再び何が起きるのか？
＊この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。