第３話 　第二章「中田新町」

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　大手門を出たさくらは思いがけなく温人がまっていたので、すぐにでも飛びつきたいおもい だった。でも頑固そうな年配のお侍が付き添ってきたのでぐっと耐えた。
　「さくらちゃん、怖かったろう？」
　「ううん、平気だよ、一休さんを読んでたから。それに、あの若君って子、悪い子じゃないよ。 喧嘩より本が好きって感じかな」

　中田新町からは御用舟で旭川を上った。頑固侍さんと中間の男の人が同乗した。 帆が夕凪を受けてヒューヒューと鳴り、舟はあっという間に鶴田の泊まりに着いた。
　鶴田からは牛が用意された。生まれて初めて牛の背に乗り、さくらは嬉しくてしょうがなかった。 牛飼いさんが綱を引き、先頭を中間さんが歩き、後ろを温人と頑固侍さんがついてきた。日は ほとんど落ちてしまっていたが、代わりにまん丸い月が木々の間から顔を出し一尺道をこうこうと照らした。


　富蔵さんと竈の前に立ち、煮炊きする間も僕はさくらと温人のことが気がかりだった。 やはり今からでも山を下りて新町に向かうべきではと心が焦った。そんな時、そとで聞きなれた声が 響いた。「おにいちゃーん」

　途端に富蔵さんも僕も持っていた杓文字を放り投げ、外に飛び出した。
　数人の人影の中から、さくらと温人が一目散にかけてきて、僕らはそのまましっかり抱き合った。 さくらは富蔵さんにしがみつくと「わーわー」と泣き始めた。先生がゆっくりと顔をだされると、 人影からもう一人、年配のお侍が前に来て深くお辞儀をした。

　中で先生とお侍の話が始まった。
「申し遅れましたが、拙者、池田家家臣で三番家老をいたす滝野亦兵衛と申します。老翁のご高名はかねてより 聞き及んでおります。本日はこのたびのことにつき、我が主より申し伝えの義がござって 参上いたしました。さて主が申しますには本件については元来なら厳しく罰するものであるが、祭りの上での 無礼講として特別にとがめなしといたすとのこと。ただし、そうは申しても町民の前で恥をかかされたとあっては 、たとえ子どもといえども武士であるからには、面子が立ち申さぬゆえ、そこで、来たる正月に開かれる 武芸披露会にて双方が立会うことで納得のいく収拾をはかるようにとのことでござる。よろしく お取り計らい願いたい。

　さて以上が役目としての口上でござりました。今からは袴を脱いで話をさせていただきたい。 じつは、すでにご承知とは存じるが、本件の子どもらの頭目は我が主人が嫡男、長尚君でござる。 建部池田家六代目当主となる方だが、主が申すになにぶんにもひ弱。読み書きには進んで向かうが 武芸はとんと苦手。恒例の正月の披露会にも尻込みをして出ないありさま。そこで、 この機会に御老翁のお力を借り、たくましく鍛えてもらえないかとの主人内々の頼みでござる。いかがであろうか・・・」

　
　

　思わぬ展開に鮎太たちはどうするかく

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　　＊この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。