たけべアメージングストーリー 「たけべアメージングストーリー」 作  建部 鮎太
「僕らはここから世界を変えるんだ」建部の3人の子どもたちが時空を超えた旅に出た。


    第4話  第一章「試合」

  • *これまでのあらすじ*
     建部中学1年生の建部鮎太、妹さくら、同級生の河本温人はふとしたことから江戸時代初期にタイムスリップする。
     そこで出会った僧侶、日船や石仏泥棒の富蔵の力を借りながら、彼らはしだいに自分たちの力で生きていくことに目覚めていく。
     日船上人の計らいで、鶴田藩角石谷村の武術の達人の老翁にかくまわれることになった三人と富蔵。互いに協力しながら日々を過ごしていく。
     そんな中、薬を買いにさくら、温人、富蔵の三人は中田新町に向かう。老翁の用事で鶴田で分れた鮎太 は旭川ダムに沈んだ湖「姫こ渕」に行き、そこで雨に降られた女の子にレインコートを差し出す。
     不思議な出会いの後、鮎太には中田新町でさくらが建部領主の子らに連れていかれるという事件が待っていた。 しかし事の一部始終を知った領主、池田長泰はさくらを放ち、家来を遣わし、角石谷の老翁に鮎太たちとその武士の子らと を新年の武術披露会で試合させること、そして嫡男、長尚にそのための修練を依頼したいとの申し出をする。 新たな生活がはじまる中、いつしか子どもたちに友情が生まれる。そして新年、試合の日が近づいて来た。

    *主な登場人物*
    建部 鮎太(あゆた)
    建部中学1年生の少年
    建部さくら
    鮎太の妹、小学5年生
    河本温人
    鮎太の同級生
    腰折れ富蔵
    富沢地蔵の盗人で優しい男
    鶴田 楓
    鶴田城の姫君
    竹内老翁
    竹内流武術の開眼者
    池田 長尚
    建部領主、池田長泰の嫡男
    塩屋十兵衛
    中田新町の塩問屋の息子

  •        
―― 1――

  試合当日の朝になった。
 僕と温人、さくら、富蔵さんの4人は昨日から中田新町の塩谷与左衛門さんの家にお世話になっている。 先生にも御一緒にとお願いしたけど「ハハハ、出向くまでもなかろう。お前たちには伝えるべきことは伝えた」と言われ、 何を伝えられたのかよくわからないまま今日になってしまった。
 温人は富蔵さんにお願いして面の位置を直してもらっている。僕らの使っていた面は金属で出来ていたけど、 これは竹製で幅がある分、視野が狭い。でも、こんな道具一つあるだけで、気持ちがずいぶん楽だ。
 さくらは清尚さんから、試合は男子しか臨席できないと言われ、ここで待つことになった。
 「う〜ん、くやしいなあ、私を引き倒したあの子が叩きのめされるのを見たかったのに」
まったく、この負けん気は誰に似たんだろう。そんな強がりを言っているけど、昨夜は心配で眠れなくて何度も寝返りをうっていた。 お母さんだったら、それは、おばあちゃんの血筋だよって言うだろうな。

 僕と温人は剣道具を背中にしょった。玄関口で与左衛門さんと十兵衛さんが見送りに出てくれていた。 両脇には人の高さもある門松がきりっと据えられていた。僕らは「よしっ、やるぞ」と手を打ち合わせた。
 まっすぐに大手門に行き、中に入り武家屋敷の通りを抜けてお濠に架かる小橋を渡った。 そこからがお茶屋だ。塀の前に人が立っていて、僕らを見るとうやうやしく頭を下げて、 「どうぞ」と手で導いてくれた。中は小学校の校門をくぐった感じに似ている。
 広い敷地内に、渡り廊下でつながった豊楽寺の本堂のような建物がいくつかあって、 漆喰の格子壁に囲われた家と倉庫のようなものも見える。僕らはその脇を通り、そのまた先にある運動場くらいの敷地に案内された。 そこに白い幕が張られ、すでに大勢の侍がキョウギに座って、始まりを待っていた。
 僕らは指定された控え席のゴザに座った。

試合

まずは師範とみられる人の模範演技から始まった。木刀を持って打太刀と仕太刀が合わせあう形が披露された。
 その後、あらかじめ選ばれた大人の何組かの試合が同時に行なわれた。広い真砂土の庭に「えー!」と奇声が飛び交うたび、 審判の人の白旗は右に左にと振られ勝敗が決まっていった。
 それでも見ていて明らかに僕らの時代の剣道とは違うことが分かった。動作がゆっくりしている。
右上段に構えると左上段に、次は中断、下段にと剣先を読んでから打ち込む。僕らの試合では、そんなことをしている間に打ち込まれている。  そうか、この時代の人は刀のつもりで竹刀を使っていて、あくまでもこれは刀の動作なのだ。僕らは竹刀だけの動きしか知らない。

 子どもの試合が始まった。先ほどと同じように数組が向かい合って、竹刀を構えた。 トーナメント式で勝ったものが次に進む。みんなの目が興味深く一人の子どもの動作を追った。
 長尚さんだ。面をかぶっているので顔はわからないけど背格好が同じだ。 相手の子が上段から打ち込んだときに見事に内に入り込み胴が決まった。長尚さんに旗が振られた。
 侍席から、「おおー」と歓声が上がった。




 いよいよ鮎太の出番!

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  *この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。






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