「たけべアメージングストーリー」 作 建部 鮎太「僕らはここから世界を変えるんだ」建部の３人の子どもたちが時空を超えた旅に出た。
第５話 第三章「鮎一」
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これまでのあらすじ
建部中学1年生の建部鮎太、妹さくら、同級生の河本温人はふとしたことから江戸時代初期にタイムスリップする。
そこで出会った僧侶、日船や石仏泥棒の富蔵、角石村の剣の達人、竹内老翁、建部藩主、池田宗春らの力を借りながら、 彼らはしだいに自分たちの力で生きていくことに目覚めていく。
そんな中、鮎太は「姫こ渕」で美しい姫と出会い、必ず現代にいっしょに戻ると誓う。
さまざまな出来事を乗り越えた鮎太らは、メールの指示を受け、再びタイムトンネルに乗る。
そして着いた所は再び江戸時代？そこで瀕死の男を見つけた３人は、近くの小屋に住む若者に助けを求める。 若者が呼んできた医者と青年を見た鮎太たちは、二人が吉岡有隣と息子、吉岡弘毅と知る。自分たちのこれまでを 伝える鮎太たち、ここでの生活がはじまる。
＊主な登場人物＊
建部 鮎太（あゆた）
建部に住む、中学一年生の少年
建部 さくら
鮎太の妹、小学五年生
河本 温人（あつと）
鮎太の同級生
建部 鮎一郎
鮎太の父 岡山の大学の教授
建部 すみれ
鮎太の母
建部 鮎男
鮎太の祖父だが亡くなっている
建部 桃江
鮎一郎の母、鮎太の祖母
楓（かえで）
鶴田城の姫君
黒船
イカサマの賭博打ち
鮎一
八幡の渡しの舟頭
桐乃
塩問屋の一人娘
吉岡有隣
福渡の名医。
吉岡弘毅
有隣の三男。日本基督教の先駆者。
三人で吉岡診療所に戻ると、温人が興奮した顔で門先に飛び出してきた。
桐乃さんの顔を見ると一度、ぺこりとお辞儀して「あっ、河本温人と申します」と言ってすぐに、
「鮎太、驚くなよ、誰だかわかるか、すごい人が来てるよ」と袖をひっぱって中に入って行った。
庭が大変なこと、というか患者さんが皆、外に出て輪をなして中を見ている。
僕らは、その中をくぐり部屋に上がった。
奥のつい立の向こうで、絞り出すようなわめき声がして、先生たちの白い服がひっきりなしに動いている。
大手術のようだ。さくらがタライをかかえバタバタ小走りできて
「男の人は外で待ってて、子どもが生まれるんだから」と言った。
僕らは慌てて、外に出ようとしたら。温人が肘をグイッ押して、僕の体を薬の調合机の方へ向かせた。
前に、ぼーっと座っている娘さんがいた。明らかに、これまで見て来た女性とは違う。どこがというと、顔立ちが今風というか現代的。お父さんの若い頃にアイドルだった山口百恵みたい。あと、誰かに似ているけど・・・。
取りあえず、離れの部屋に鮎一さんたちをお連れしてから、温人の話をと思った時に
「ンギャー、ンギャー」と鳴き声がした。それで、また部屋に引き返した。
ついたてから、女の人が産着にくるまれた赤ん坊を抱え「あー良かった、男の子だったよ」と言って出て来た。
この人も初めて見る人だった。奥から、弘毅さんのお兄さんの完斉先生が、手拭いで腕を拭きながらニコニコ笑ってやって来て、
「いやー、わしも産婆は仰山やったが、これほどの難産は滅多にない。イネ殿が来られておって助かったわ」と、その人に向け頭を下げた。
イネ？この女性が。
「いえ、たまたま娘を送って大阪に行く用事ができて。なら、懐かしい有隣先生にお会いして行こうと寄っただけですの。私が子どもの頃に先生が長崎に来られて、ずいぶんとかわいがっていただいた思い出がございます。あの頃から本当に心の広いお方でしたわ。息子さんの、ご高名はお聞きしておりましたが、りっぱになられて、お父様もご安心ですわ」
頭がこんがらがって来はじめた。
すると後ろから「よかったですなあ！」と声が上がって、侍が一人、赤ん坊の前につっと立った。
男はしみじみと産着の中をのぞき込むと、女性の手から子を受け取った。
寛斎さんが「大橋殿、浜田から鶴田まで来られた甲斐がありましたなあ。ご嫡男、名は何とされる」
「若先生、ありがとうございます。なんとお礼を申してよいか、この子の命、無駄にはさせませぬ。名は文之といたします。これからは侍の時代ではござらん。文を持って世に出て欲しい、そう願っております」
「温人、この子の名どこかに書いてなかった？」そう質問しようと温人の顔をうかがうと、赤ん坊のことも、回りのことも何も見えていないかのように、
フワーッと立ちつくして、一心に娘さんのことを眺めている。
その日は結局、鮎一さんたちと話をする機会はなかった。
はたして、これから再び何が起きるのか？
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＊この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。