たけべアメージングストーリー 「たけべアメージングストーリー」 作  建部 鮎太
「僕らはここから世界を変えるんだ」建部の3人の子どもたちが時空を超えた旅に出た。


    第二話  第一章「竹内老翁」

  • *これまでのあらすじ*
     建部中学1年生の建部鮎太、小学5年生の妹さくら、同級生の河本温人の3人はふとしたことから江戸時代初期にタイムスリップする。
     彼らを見つけ介抱した日蓮宗不受不施派の僧侶、日船は通りかかった石仏泥棒の富蔵の力を借り、福渡村の江田家に匿う。そこで途方に暮れる3人であったが、次の日、日船に呼ばれ、そこで同じ年頃の若い娘たちと僧侶に出会う。数百年先の建部の様子を聞き、驚き喜ぶ 僧侶と娘たち。鮎太はその夜、温人から彼らを待ち受ける悲しい運命を知らされる。鮎太の中で何かが大きく芽生え始める。
    自分が幕府から追われる身である日船は子どもが巻き込まれることを案じ、3人を別の場所に移さねばと考える。富蔵を案内役に3人は初めての目にする江戸時代の福渡に出て 津山街道を北へと向かった。

    *主な登場人物*
    建部 鮎太(あゆた)
     建部中学1年生の少年
    建部さくら
     鮎太の妹、小学5年生
    河本温人
     鮎太の同級生
    建部 鮎一郎
     鮎太の父、岡山の大学教授
    建部 すみれ
     鮎太の母
    建部 鮎男
     鮎太の祖父だが亡くなっている
    建部 桃江
     鮎太の祖母
    日船上人
     不受不施を説く日蓮宗の高僧
    腰折れ富蔵
     富沢地蔵の盗人だが優しい男
    鶴田 楓
     鶴田城の姫君
    竹内老翁
     竹内流武術の開眼者
    池田 清尚
     建部領主、池田長泰の嫡男
    塩谷十兵衛
     中田新町の塩問屋の息子

  •        

                 ―― 2 ――

 視界が急に明るくなり、遠くまで黄金色の稲田が広がった。ここから下神目だ。 うっそうと茂った場所がない、小高い所まで田んぼが開かれている。あちこちで作られなくなった 田んぼや畑が、荒れ放題になって困り果てる、そんな未来があるなんて想像もつかないだろうな。
 僕らの時代はどこからか間違った・・・、そんな話を先日、温人の家の近くで果樹園をする岸太郎さんと言う おじいさんが、お父さんにしてたのを思い出した。

 「なあ、鮎一郎さん、日本はどっからか間違ったんじゃ、わしゃあ、どうもそう思えてならん。 専業の百姓は今やほとんどおらんようになった。皆、勤めに出て、休日の合間に田畑をやる。そのためには 機械が必要じゃと言うんで、トラクターや田植え機を買う。それでまた、その金を返す ために働かにゃあおえん。もう、どっちが始まりじゃったかわからん。ジレンマじゃ。
 せえでも、それも歳を取ってでけんようになったら、放っておくしかねえ。 そういう事が、もうそこら中で起きとる。この先もっともっとこれが進んで、 日本の農村からは人がおらんようになり、みんな大阪とか東京とかの都会に住むしかねえようになる」

 お父さんは、よく温人の家に寄った時などに、細くて小柄なこのおじいさんと話をしてくる。 果樹のことはもちろん、世の中のことにも詳しいおじいさんのことを、お父さんは「太郎博士」 と呼び尊敬している。
 博士は60歳で会社を辞めて、それから10年かけてアフリカ、中近東、中国、インド、南米と世界中を訪れ、人がどんな土地で、 何を作り、何を食べ、どういう生活をしているかを見て回った。そして70歳になり、あらゆる作物づくりに挑戦を始めた。
 陽当たりのいい傾斜地を一人で開墾し、雨水の集積を兼ねた作業小屋も自力で二棟建てた。そこに梨やリンゴ、蜜柑にぶどう、 いちじく、柿、ブルーベリー、メロン、西瓜、茄子にキュウリにカボチャに人参、自然薯・・・とあらゆるものを植えた。 そうして、今日までの15年間、毎日、出かけては夕方帰る、成育を確認しない日はなかった。

 「それがじゃ、鮎一郎さん。あんたは大学の先生じゃけん、よう知っとるじゃろうけど、世界を回ってみんせい。中国にしろロシアにしろ どこを見ても、豊かな土地というもんは少くねえでえ。作物に必要な肥えた土地、それと水じゃ、水が無いんじゃ。この日本では不自由なくあるものが、 世界では、それがなくて作物を育てられんのじゃ。北朝鮮やこう、住んでみられえ。 わしは戦後しばらくおったけん、ようわかった。土がのう、冬は1メートルも凍っとる。それでも耕して、何か作れんもんかと やっておる。皆、生きるのに必死じゃでえ。それが日本では作ろうと思えば作れるのに、皆がやりたがらんのじゃ。 日本ほど自然が豊かで、作物に適したところはねえというのに・・・」

 青い空に大鷲が舞っている。その下では人と牛がゆっくり動いていて、どこかの集落から、赤ん坊の泣き声と犬の吠える声が聞こえてくる。 山の方からも、コーンコーンと木を切る音がして、この自然の隅々まで人の手が入り、暮しているんだなと思った。
   温人も目を輝かせてこの風景に見入っていた。そして「太郎博士がいたら、なんて言うだろうなあ」と独り言をつぶやいた。  



次回へ

 前回へ

 最新号を読む

 これまでの全ストーリー

  *この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。

 





トップページへ戻る