たけべアメージングストーリー 「たけべアメージングストーリー」 作  建部 鮎太
「僕らはここから世界を変えるんだ」建部の3人の子どもたちが時空を超えた旅に出た。


    第3話  第二章「中田新町」

  • *これまでのあらすじ*
     建部中学1年生の建部鮎太、妹さくら、同級生の河本温人はふとしたことから江戸時代初期にタイムスリップする。
     そこで出会った僧侶、日船や石仏泥棒の富蔵の力を借りながら、彼らはしだいに自分たちの力で生きていくことに目覚めていく。
     日船上人の計らいで、鶴田藩角石谷村の武術の達人の老翁にかくまわれることになった三人と富蔵。互いに協力しながら日々を過ごしていく。
     そんな中、薬を買いにさくら、温人、富蔵の三人は中田新町に向かう。老翁の用事で鶴田で分れた鮎太 は旭川ダムに沈んだ湖「姫こ渕」に行き、そこで雨に降られた女の子にレインコートを差し出す。
     不思議な出会いの後、鮎太には中田新町でさくらが建部領主の子らに連れていかれるという事件が待っていた。 しかし事の一部始終を知った領主、池田長泰はさくらを放ち、家来を遣わしてと角石谷の老翁に解決策を打診する。 それは、鮎太たちとその武士の子らとで試合をすること。

    *主な登場人物*
    建部 鮎太(あゆた)
    建部中学1年生の少年
    建部さくら
    鮎太の妹、小学5年生
    河本温人
    腰折れ富蔵
    富沢地蔵の盗人で優しい男
    鶴田 楓
    鶴田城の姫君
    竹内老翁
    竹内流武術の開眼者
    池田 長尚
    建部領主、池田長泰の嫡男
    塩谷十兵衛
    中田新町の塩問屋の息子

  •        

             ―― 3――

 ふたたび一尺道を下る。温人が一緒に行くと言ってくれたけど、今はさくらのそばにいてくれた方が安心だ。自分のことで試合まですることになって、 さくらは相当しょげている。
 家を出た時は肌寒く感じたけど、歩くうちに全身がポカポカとして、それに合わせて「よーし、負けないぞ」という気が起きてきた。
 お父さんがよく行っていた、「何かうまくいかない時とか、気持ちが落ち込む時は歩くと良い。そうすればやれるぞという気が湧いてくる」 お父さんは大学で研究が進まないと外に出て後楽園のお濠あたりまで歩くそうだ。そうすると、もう一度やる気が出るんだって。 それでもだめなら、きっぱりと忘れて釣りに没頭する。帰って来ると、今まで何て小さなことにこだわっていたのかって思えるんだって。
 どうしてるだろう、お父さん。あの日の3日ほど前、僕の部屋に来て、「鮎太、父さん、すごい発見をしたかもしれない。まだ人には言えないんだけどな」と 言っていた。何だったのだろう、その発見って・・・。

 鶴田の町に入り「しん屋」という旅館を訪ねた。

 与左衛門さん親子はすでに支度をすませて、店先でお待ちだった。僕は帰られた後、無事にさくらたちが戻って来て、 ご家老からお咎めなしと言われたことをお伝えした。
 それを聞いて息子の十兵衛さんが手で顔をおおって泣き出した。与左衛門さんが、「おお、今度はうれし泣きか、いそがしいことじゃ」と 言ったので、慌てて無理くり照れ笑いをして袖で鼻水をゴシゴシと拭った。
 与左衛門さんがそんな十兵衛さんの肩を叩きながら、「こんな息子ですが、どうかこれからもよろしくお付き合いください」と頭を下げられた。いい親子だなあと思った。

 与左衛門さん親子を高瀬舟の舟着場までお見送りし、そのまま川沿いを滝谷川河口へと向かった。 板橋を渡るとすぐに林の中に楓の木が見えた。碧い湖面を漂わせる姫こ渕が待っていた。白鳥が二羽、 のんびりと朝の光を浴びて浮んでいた。そう言えば、旭川のダム湖にも白鳥がいたけど、ご先祖かも知れない。
 僕は湖の周囲を歩きながら朝方の夢をたどった。本当にあの女の子は、今から何十年は昔、宇喜多側の 小姓と会っていたことを苦に、この水中に身を投げた鶴田城の姫君なのだろうか。だとしたら、どうして今ここにいるのだろう。 土手の地面に腰を下ろし草をむしりながらも、まだ考えていた。

 「あゆ太さまー」誰かが僕の名前を呼んだので顔を上げると、向こう側の楓の木のそばで当の本人が 薄桃色の着物の袂を大きく揺らしながら手を振っていた。えっ、なんで僕の名前を知ってんの?
 「だって昨日、お別れする時、ご自分で”あの、私は建部あゆ太と申します”って言われたじゃないですか」
 「そうか、そんなことすっかり忘れていました。で、あなたのお名前をお聞きしていいですか」
 「うーん・・・」しばらく、もたれ掛かっている大樹のてっぺんを見つめ、それから
 「かえで、・・・鶴田かえで、です」

 明るい人だった。歳は僕と同じ14歳。どこに住んでいるか何をしているか、そんなこと聞かなくても、 それだけでわかり合える気がした。それに、聞かれたのはもっぱら僕の方だったし。昨日の帰ってからのことも。
 「まあ、妹さんって、強い子ね。私、会ってみたいわ。それに温人さんも。でも、本当にご無事でよかった。 試合は必ず鮎太さんたちが勝ちますわ。私、神様にお願いします」
 ときおり、陽ざしの暖かさにつられて季節外れのウグイスが「ホーホケキョ」と鳴き声を上げた。 僕はもう、この子は伝説に云われるような暗くて悲しい姫君とは違うんだと、はっきり分かっていた。 今を一生懸命、何かを探しながら生きている、僕らと同じ子どもなんだと。
たけべアメージングストーリー
   「鮎太さんの来られた時代の話をもっと聞かせてください」

 それから僕はどんな話をしただろう。世界中がこだまのようなもので繋がっていて、誰とでも話をしたり 手紙を交換できる。どんな所にでも空を飛んで行き会うことができる・・・。
 でも、楓さんが一番に目を輝かせたのは、僕が「子どもは全員、僕もそうだけど、学問をすることになっていて、 それが終わると自分の好きな道へ進むんだ」と言った時だ。
 「え、じゃあ、大人の人たちの定めに従うのではなくて、自分で生き方を決められるの? なんて羨ましいんでしょう。私も行ってみたい、鮎太さんの時代へ・・・」


 いつまでも話していたかった。ずいぶんと長く一緒にいたつもりでも、気がつくと一人、朝、 来た山道を登っている。すでに、会っていたことが遠い昔のように感じている。    
 


 思わぬ展開に鮎太たちはどうするか



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  *この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。






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