*これまでのあらすじ*
建部中学1年生の建部鮎太、妹さくら、同級生の河本温人はふとしたことから江戸時代初期にタイムスリップする。
そこで出会った僧侶、日船や石仏泥棒の富蔵、角石村の剣の達人、竹内老翁の力を借りながら、
彼らはしだいに自分たちの力で生きていくことに目覚めていく。
そんな中、鮎太は「姫こ渕」で美しい姫と出会う。一方、中田新町に薬を求めに行ったさくらは、侍の子らと揉め事になり、
解決策として鮎太たちは侍の子らと新年の武術披露会で試合をすることになる。同時に領主の嫡男、長尚の指導も任される。
試合は鮎太が勝ち、褒美として富蔵を腰折れ地蔵の守り人にしてもらう。試合の帰り、鮎太らは侍の子らの襲撃に合うが、
長尚の力で難を逃れる。
*主な登場人物*
建部 鮎太(あゆた)
建部中学1年生の少年
建部さくら
鮎太の妹、小学5年生
河本温人
鮎太の同級生
腰折れ富蔵
富沢地蔵の盗人で優しい男
鶴田 楓
鶴田城の姫君
竹内老翁
竹内流武術の開眼者
池田 長尚
建部領主、池田長泰の嫡男
塩屋十兵衛
中田新町の塩問屋の息子
試合が終わっても十兵衛さんは今まで通りやって来た。今はさくらにローマ字を教わることに感心がいっている。
そんな様子を見ても不思議と先生は咎めるでもなく、むしろ微笑ましく眺めている。
温人から聞いた竹内久盛公のイメージは、我が子らに三十歳を超えるまで女子に近づいてはならぬと言う程、厳しい方だったらしいけど。
富蔵さんは、奥さんと娘さんを呼び戻しに津山城下へ行った。褒美に頂いた一両を手渡すと、何度も何度も礼を言われたけど、さくらも僕も、
温人だって富蔵さんがいてくれたことがどれほど心強かったことか。昔も今も関係ないと思う。いつだって心やさしく、助けてくれる人がいる。
そんな人の交わりがあって僕らの世界はつくられてきたんだ。
お飾りも取れて、とんどの祭りも終わった新年半ば、僕は用事で鶴田に出向いた。この用事は先生が僕のために作ってくれたのかもしれない。
姫に逢うたら、これを渡してくれと、布に包んだ物を渡された。
ずいぶんと来なかったためか鶴田の町が急に賑わって感じる。はじめて見た時は、僕の住んでいる福渡の町が都会に見えるとか思ったのに。
今日は活気に満ちて、商店に出入りする人の顔がきびきびとして見える。
「やはりこれは福渡の負けかな」そんなことを考えながら、旭川を右手に姫こ渕へ向かった。
見慣れた木のそばに楓さんがいた。
「どうして、僕が来ることがいつも分かるのですか?」
「鮎太さんの時代にもあるのでしょう?遠く離れていても、声を伝えることができるって。わたしにもそんな声が届いて来て、今、何を思っているか、どうしたいとか伝わるみたい」
僕はそれ以上聞かないことにして、先生から言付かった包みを懐から出した。楓さんはその布を開き、じっと中の物を見つめ、そうしてそれをしっかりと握るとやがて帯の中にしまった。小刀だった。
「亡くなった母のものです。老翁さまが大事にお持ちくださったのですね。お城はとうに焼けてしまって、なにも遺っていません。わずかに石垣があるだけ。お城があったことさえ忘れてしまうでしょう」
僕はなんと答えたらいいのだろう、あまりにつらい経験をした人に対して・・・。
僕らの時代にも毎日起きていた、内戦やテロで肉親を失う人たち。でもそれは、日本から遠くはなれた国の事で、僕とは関係のない話だと思っていた。僕は、これまでの自分の未熟さ幼稚さが恥ずかしかった。こんな時に、かける言葉も持たない自分が・・・。
「鮎太さん、わたしを必ず連れて行ってください、あなたのその時代に。そうして、わたしは鮎太さんたちと、そこからもう一度、新しく生きていきたい・・・。正しい世の中にしていくために」
「うん、かならず・・・」
そうだ、僕は必ずこの人を連れて行こう、そうして世界を二人で変えるんだ。
まだまだ続く次号、乞うご期待!
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*この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。