*これまでのあらすじ*
建部中学1年生の建部鮎太、妹さくら、同級生の河本温人はふとしたことから江戸時代初期にタイムスリップする。
そこで出会った僧侶、日船や石仏泥棒の富蔵、角石村の剣の達人、竹内老翁の力を借りながら、
彼らはしだいに自分たちの力で生きていくことに目覚めていく。
そんな中、鮎太は「姫こ渕」で美しい姫と出会う。一方、中田新町に薬を求めに行ったさくらは、侍の子らと揉め事になり、
解決策として鮎太たちは侍の子らと新年の武術披露会で試合をすることになる。同時に領主の嫡男、長尚の指導も任される。
試合は鮎太が勝ち、褒美として富蔵を腰折れ地蔵の守り人にしてもらう。試合の帰り、鮎太らは侍の子らの襲撃に合うが、
長尚の力で難を逃れる。鮎太は楓姫と会い、必ず現代にいっしょに戻ると誓う。
*主な登場人物*
建部 鮎太(あゆた)
建部中学1年生の少年
建部さくら
鮎太の妹、小学5年生
河本温人
鮎太の同級生
腰折れ富蔵
富沢地蔵の盗人で優しい男
鶴田 楓
鶴田城の姫君
竹内老翁
竹内流武術の開眼者
池田 長尚
建部領主、池田長泰の嫡男
塩屋十兵衛
中田新町の塩問屋の息子
試合が終わってからも僕らの生活は今まで通り続いた。と言っても、朝、日の出とともに起きて田んぼに行く季節ではないので、
もっぱら家の修繕やまわりの整備、道を直す、木を切る、共同の水路を整える。(これが、けっこう大変だと知った)
先生との問答も変わらず続いている。ただ、平成二十六年に至るまでの歴史は日本が戦争に負けた頃から余り関心を持たなくなったようで、
最近もっぱら尋ねられるのは世界の歴史のことが多い。
月に行ったことや、地球全域を標的にした一度に数十万もの人を殺せる大砲があることを話しても、「ほーう」、そのあと
「まあ、神仏を恐れぬ人間ならやりかねん」とだけ言って深く聞こうとはしなかった。
先生の尋ねる世界への関心は例えば「国連とは徳川幕府のようなものか?」と聞かれ、温人が
「いえ、違います。国連は兵を持っていません。世界各国が集まって評議する場です」
「それはどのような評議じゃ」
「すべての国の承諾か否かの数で決める場合もありますが、重要な問題は強国が集まって決めます」
「ふーむ、それで世の中は治まっておるのか」
「いえ、世界はますます混乱していっています」
「だろうな・・・」
また時には、「アメリカという国はいかなる事情で奴隷だった身分の人間を征夷大将軍に推挙することになったのじゃ」
このオバマ大統領が誕生した経緯に対する答えはさすがに温人も困ったようだ。
「アメリカは2つの大きな勢力があります。一つは地主や大商人、それに古くから住んでいる人たちの勢力。もう一つは小作人や商人に使われている人、それと新しく住みついた人たちでつくる勢力です。その後の勢力に黒人のオバマ大統領がいました」
しかし先生が聞きたかったのは、それでは大商人たちの方がいつも強いはずなのに、何ゆえ?だった。
「一票の力」と答えると、それでも富を握るものは、その一票を百票、二百票と買い占めるだろうと言われる。
まして百数十年前までは奴隷制度があって、その後も人種差別が当たり前の国だったのに、何がどうしてこう変わってきたのか。
温人も僕も、もっと勉強していつかお答えしますとしか答えられなかった。たぶんアメリカ人なら答えられただろうけど、僕は日本人だしと言うより民主主義が僕にもよく理解できていないからなのかもしれない。
お父さんのこんな話を思い出す。
「世界は今、またイスラムと十字軍の戦争に入ったように言われている。
でもそれは間違っている、そもそも宗教が人間の自由より上だなんて。
せっかくここまで人間の平等の考えが広まってきたのに。アメリカと言う国は間違っていることもあるが、
彼らは日本や他の国と違っていつも同じ人間がやっているわけじゃあない。
世界中の人種が移り住んで、そのつど新しい価値に入れ替わっている。
だから言ってみればいつだって新しい国なんだ。
それを支えているのは、個人の民主主義に対する考えだよ。
世界が一つにならない限りこの地球は崩壊する。
そのためには宗教や思想、人種、性別とかで人をくくりつけるのではなく、個人を尊重する民主主義によらなくては。アメリカはそのモデルなんだよ」
二月に入って小田十郎左衛門さんから書状が届いた。一の口井堰の工事を見たいと十兵衛さんのお父さんを通じてお願いしてあった返事だ。
「貴殿より願届け之議に付・・・」 漢字が多いので先生に読んでもらった。
「まもなく品田一の口から取り込む用水の普請の目途が立つので来なさい」とのこと。
僕と温人は早速、出かけることにした。
まだまだ続く次号、乞うご期待!
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*この物語に登場する人物や出来事は、あくまで想像上のもので実際の人物、史実とは異なります。