Asagaya Parkside Gallerie 記憶写真

「ロカビリー」


高校に入った姉は、新しいものをいろいろ仕入れてくる。この間の土曜日は、
家庭科の実習でやったんじゃあと言って、ドーナッツを作ってくれた。
メリケン粉と黄粉(卵の代用品)と砂糖とふくらし粉をまぜて、油で揚げるんよう。
外の形はなあ、湯のみ茶碗の口がええよ。中の穴はお猪口の底が丁度ええ
わあ。ユウちゃんも作ってみねえ。
面白いのでいくつも型を抜いてテーブルに並べた。
ほんなあ、揚げるけん見とんねえよう。
油に浮かべるとあっというまに大きくなって、本当のドーナッツになった。
新聞紙の上にのせて砂糖をまぶした。
どげえなあ(どう)、おいしい?
おお、ホンマにこりゃあドーナッツじゃあ、給食で出たのとおんなじ味じゃあと
思った。
本家のトンちゃんは、母の一番したの妹で、歳は姉の一つ上なだけだ。それで
トンちゃん家に遊びにいってくらあと姉はよく出かける。
キミちゃん(姉)今度、ロカビリ―聞きに来られえ。今はなあ、ものすげえ人気
なんよと話してる。部屋に一回だけ付いてった。レコードが十枚以上三面鏡の
横に並べてあった。一枚づつ表紙を見せてくれた。ポマードを光らせた外人が
ギターを持って、両脇から金髪の女の人が抱きついて笑っている。
「プレスリーよ、えかろう格好が。歌あ聞いたらしびれるよう」
蓄音器にのせて回してくれたけど、うるさいだけで何にもいいと思わなかった。
それから、姉はラジオで歌の番組を掛けるようになった。前は花菱アチャコと
浪速チエコがしゃべる「おとうさんはお人好し」だったのに。
「ユウちゃん始まるよ、聞こえる?この開始の音楽がええなあ」
金曜の夜八時には、雑音の入るラジオの箱に耳を当てることになった。
”こよいにお送りいたします、歌の数々、題名は・・”
「ひゃー今日はええなあ、飯田久彦、藤木孝、鈴木やすし、日本のロカビリー
三人組よ」
”ジェニージェニージェニー いかした名前だぜジェニージェニー・・”
やっぱりうるさいだけだった。
でも、たまに静かな曲の日もあった。
「こりゃあええのう、なんかさみしい歌じゃのう」
「こりゃなあ、イブモンタンいう人の”枯葉”じゃが。秋に葉っぱが舞っとる
感じがしょう」
葉っぱは舞ってなかったけど、こっちの方がなんぼか良かった。

だいぶ経って、姉のひいきは守屋浩 水原弘 橋幸夫、に変わっていった。
「高校でなあ、アンケートを取ったら、今はもう橋幸夫が一番なんよ」
でも私は学校で、
「ゼーニゼニゼニ ゼニくれえゼニイ」と歌って人気だったので、しばらく
ロカビリーしている。
そろそろ、”いたこ笠”を覚えんといけんかのうとも思ってる。



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